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災害事例研究 No.162 【林業】

受け口切りと追い口切りを切り過ぎてつるを残さずに伐倒したため、立木が急に倒れ始め、退避の際に転倒し、チェーンソーで大腿部を切創した

スギ立木の伐倒作業において、つるを残さずに追い口を切り過ぎたことから立木が急に倒れ始め、退避の際に転倒し、チェーンソー用防護ズボンを着用していたものの、チェーンソーで大腿部の動脈を切断した。

災害の発生状況

 当日は、チェーンソー伐倒者1名、プロセッサ運転者1名、ザウルスロボ運転者2名の計4名で、伐木、集造材、作業道補修等の作業を行っていた。被災者はチェーンソー伐木作業に従事していたが、伐倒開始の呼子の合図の後、終了合図が聞こえなかったこととチェーンソーのエンジン音が途絶えたことから、不審に思った同僚の作業者がチェーンソーの作業箇所に近づいて調べたところ、被災者が伐倒したスギ伐根の下方にうつ伏せで倒れているのを発見した。救急搬送したが、大腿部の動脈切断による失血により死亡となった。被災者は切創防止保護衣を着用していたものの、チェーンソーの刃が当たった部分は防護繊維のない股間の部分であった。
 作業箇所は傾斜35度の斜面であり、スギ立木(胸高直径約60cm、樹高30m)の伐倒木は、伐根直径が約90cmであったことから、追い口は二段で切っていた(チェーンソーのバーの長さ63cm)。受け口は角度が45度程度で、深さは伐根径の3分の1程度であったが、受け口の下切面は斜め切りより深く切り込まれていた。そのため、受け口と追い口切りの間の切り残し(つる)がない状態であった。

災害の発生原因

  1. 受け口の下切りを斜め切りより深く切り込んだため、追い口切りを切り進めたときに、つるが残らなかったことから、突然立木が倒れ始め、退避の際に慌てたり、転倒等の可能性があったこと。
  2. 伐倒に当たっては、追い口切りとくさびの打ち込みを交互に行い、最後は必ずくさびを打ち込むことにより伐倒しなかったこと。

災害の防止対策

  1. 受け口の会合線を一致させ、追い口との間に適切な幅の切り残しを確保し、つるの機能(倒れる方向を確実にする、倒れる速度を遅くする)を確実に生かすこと。
  2. 伐倒に当たっては、チェーンソーバーが挟まれないようにすることと伐倒方向を確実にするために、追い口切りとくさびの打ち込みを交互に行い、最後は必ずくさびを打ち込むことにより伐倒すること。

〈 労働安全衛生規則 〉
(かかり木の処理の作業における危険の防止)
(伐木作業における危険の防止)
第477条 事業者は、伐木の作業(伐木等機械による作業を除く。以下同じ。)を行うときは、立木を伐倒しようとする労働者に、それぞれの立木について、次の事項を行わせなければならない。
一~二 略
三 伐倒しようとする立木の胸高直径が二十センチメートル以上であるときは、伐根直径の四分の一以上の深さの受け口を作り、かつ、適当な深さの追い口を作ること。この場合において、技術的に困難である場合を除き、受け口と追い口の間には、適当な幅の切り残しを確保すること。
2 略

〈チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン〉令和2年1月31日付け基発0131第1号7-(3)基本的伐倒作業
ア 概要
伐倒作業において、正しい受け口切り及び追い口切りによって、受け口と追い口の間には適当な幅の切り残し(以下「つる」という。)を正しく残すこと。なお、安衛則第477条第1項第3号に基づき、伐倒しようとする立木の胸高直径が20センチメートル以上であるときは、伐根直径の4分の1以上の深さの受け口を作り、かつ、適当な深さの追い口を作ること。この場合において、技術的に困難である場合を除き、伐根直径の10分の1程度となるように、つるを確保すること。
伐木に従事する労働者の知識、経験等を踏まえ、胸高直径20センチメートル未満の立木であっても、適切に受け口、追い口及び切り残しを作ることができる場合は、受け口を作ることが望ましいこと。
また、2個以上の同一形状のくさびを使用して行うことを原則とすること。なお、立木の重心の移動等を踏まえ、くさびを使用すること。
(中略)
イ〜ウ 略
エ くさびの打ち込み
(ア) くさびは、のこ道の確保及び伐倒方向を確実なものとすること等のために用いるものであること。
(イ) 追い口切りにおけるのこ道の確保のため、薄いくさびを使用すること。
(ウ) その後、切り幅の進行を確認しつつ、重心を移動させるための厚いくさびを使用すること。
(エ) 上記によりくさびを複数同時に使用する場合は同一形状かつ同じ厚さのものを組にして使用すること。
(オ) 略
オ 略

〈林業・木材製造業労働災害防止規程〉
(くさびの使用)
第62条 会員は、チェーンソーによる伐木の作業を行う場合において、伐倒しようとする立木の重心が偏しているもの、あるいは、胸高直径が20センチメートル以上のものを伐倒しようとするときは、作業者に、同一形状かつ同じ厚さのものを組みにして、くさびを2本以上用いること等立木が確実に伐倒方向に倒れるような措置を講じさせなければならない。
2 会員は、作業者に第1項の作業を行わせる場合には、次の各号に掲げる事項を行わせるよう努めなければならない。
(1) くさびは立木の大きさに応じて本数を増やすこと。
(2) 略