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災害事例研究 No.28 【林業】

間伐作業中、同僚が伐倒した立木に激突され、その下敷きとなった

 同僚が伐倒した立木に激突される、いわゆる「他人伐倒」による死亡災害は、伐倒者が加害者の立場になるものであり、刑法に規定されている業務上過失致死罪等にも問われかねない悲惨な災害である。
 この「他人伐倒」による死亡災害は、平成10年から22年までの林業における死亡災害の状況を見ると、伐木作業による死亡災害が、全体の約53%を占めているなかにあって、その約25%と、4分の1を占めており、極めて憂慮すべき状況にある。
 こうした悲惨な「他人伐倒」による死亡災害が、異なる作業環境下において、2件連続して発生したので、その災害事例を紹介する。

他人伐倒による災害事例1

災害発生の状況

  1. 被災者は、同僚8名とともに、前日から、スギ・ヒノキ混交林(林齢46年生)の間伐作業に従事していた。
  2. 被災当日、3班に分かれて間伐作業を行うこととし、被災者は、間伐作業地の林縁部において、同僚2名とともに、チルホールを使用して伐倒しなければならないときは共同で、それ以外のときは、単独で伐木作業に従事していた。
  3. 同僚Aが、ヒノキ(胸高直径:22cm、伐根直径:28cm、樹高:17m)を単独で伐倒したところ、伐倒木から約13mの離れた箇所にいた被災者に激突し、被災者は、仰向けの状態で伐倒木の梢端部の下敷きとなり死亡した(死因:頸部損傷)。

災害発生の原因

  1. 直接の原因

     本災害の直接の原因としては、同僚Aが、かけ声で伐倒する旨の合図を行ったものの、周囲の状況を十分に確認しないままに伐木作業を行ったことが挙げられる。
     なお、同僚Aは、ほぼ基本どおり受け口及び追い口をつくっていたことから、伐倒方向の狂いはなく、また、当該作業地は、傾斜も極めて緩やかで、見通しも良く、被災者が受災した箇所までは13mと近距離であったことから、伐倒前に、周囲の状況を確認していれば、被災者が伐倒方向にいることを容易に認識することができたものと考えられる(写真1参照)。

    casestudy028-01
  2. 誘 因
    本災害の誘因としては、次のことが挙げられる。
    ①  事業者は、同僚A及び被災者に対して、法定事項である「伐木等の業務に係る特別教育」を実施しておらず、伐木作業の基本等に係る知識や技術を十分に習得させていなかったこと。
    ② チルホールを使用して伐倒するときは、3名で共同して実施することとしていたことから、「山割り」により各作業者の担当区域を決めていなかったため、近接作業となっていたこと。
    ③ 被災者が、安全な箇所に確実に退避していなかったこと。 被災者は、伐倒木の樹高が17mあるにもかかわらず、伐倒方向に13mしか離れていない箇所において受災しているが、当該箇所付近には、間伐対象木がないことから、作業のために当該箇所にいたとは考え難い。したがって、被災者は、伐木作業の経験がなかったため、退避場所の選定を誤り、伐倒方向にある当該箇所に退避し、同僚Aの伐木作業の状況を見ていたものと考えられる。

災害防止対策

  1. 合図と指差し呼称を確実に行い、安全を確認してから、伐木作業を行うこと。
     伐木作業においては、合図を実施しなかったり、形式的に実施したことにより悲惨な災害が多く発生していることから、合図を確実に実施すること。
     また、指差呼称については、これを実施することにより、注意力が高まり、ヒューマンエラーが6分の1に減少するとの実験結果もあるなど、安全を確保する上において極めて有効な手段であるが、これとて、形式的に実施すれば、その効果は期待することはできないことに加え、人間は、視界に入っていても、注意を払っていないものについては、動きや大きな変化があっても気づかないと言われていることから、「目で見る」、「指で差し示す」、「声を出す」ことによって、注意力を高め、確実に安全を確認すること。
  2. 複数の作業者が同時に伐木作業を行うときは、「山割り」を適切に行い、あらかじめ、各作業者の担当区域を決めておくとともに、立木の樹高の1.5倍の距離の範囲内に伐倒者以外の作業者を立ち入らせないこと。
     また、山割りは、上下作業を排除するために、尾根に向かって縦割りを原則とし、また、隣接する作業区域で同時に伐木作業を行うときは、近接作業を排除するため、伐倒木の樹高の2.5倍の範囲内は立入禁止とすること。
     なお、立入禁止区域から退避するに当たっては、立木の陰など安全な箇所を退避場所に選定の上、伐倒の終了合図があるまでは、伐木作業の状況を注視し、安易に退避場所から出ないように留意すること。
  3. 事業者は、安全衛生教育及び労働災害の防止に必要な措置を適切な講じること。

【労働安全衛生規則】 (昭和47年9月30日労働省令第32号)
(伐倒の合図)
第479条 事業者は、伐木の作業を行うときは、伐倒について一定の合図(※かけ声、笛等により行う合図をいう。)を定め、当該作業に関係がある労働者(※当該作業に従事する労働者、当該作業に必要な資材の運搬又は整理に従事する労働者及び当該作業に関する指示、連絡等に当たる労働者をいう。)に周知させなければならない。
【※罰則:6月以下の懲役又は50万円以下の罰金】
2  事業者は、伐木の作業を行う場合において、当該立木の伐倒の作業に従事する労働者以外の労働者(以下本条において「他の労働者」という。)に、伐倒により危険を生ずるおそれのあるときは、当該立木の伐倒の作業に従事する労働者に、あらかじめ、前項の合図を行なわせ、他の労働者が避難したことを確認させた後でなければ、伐倒させてはならない。【※罰則:6月以下の懲役又は50万円以下の罰金】
3  前項の伐倒の作業に従事する労働者は、同項の危険を生ずるおそれのあるときは、あらかじめ、合図を行ない、他の労働者が避難したことを確認した後でなければ、伐倒してはならない。【※罰則:50万円以下の罰金】

【林業・木材製造業労働災害防止規程】
(伐倒合図)
第27条 会員は、伐木の作業を行う場合には、伐倒について予備合図、本合図、終了合図を定め、かつ、作業者に、これらの合図を周知させなければならない。
(合図確認と指差し呼称)
第28条 会員は、伐木の作業を行う場合には、作業者に、次の各号に掲げる事項を行わせなければならない。
(1) 予備合図を行うこと(※受け口切りを開始する前に行うこと)。
(2) 他の作業者が退避したことを応答合図により確認すること。
(3) 本合図(※追い口切りを開始する前、又はクサビを打つ前に行うこと)及び指差し呼称による確認を行った後、伐倒すること。
(4) 伐倒を完了した後、終了合図(※伐倒木の安定、枝条等の飛来・落下のないことを確認した後に行うこと)をすること。
(山割り)
第14条 会員は、山割りをする場合には、材が転落し、又は滑ることによる危害を防止するため、地形等によりやむを得ない場合を除き、縦割りとしなければならない。
(近接作業の禁止)
第16条 会員は、立木を伐倒する場合には、立木の樹高の1.5倍の距離の範囲内に他の作業者を立ち入らせてはならない。

他人伐倒による災害事例2

災害発生の状況

  • 被災者は、現場責任者及び同僚1名とともに、スギ・ヒノキ混交林(林齢70~80年生)の間伐作業に従事していた。
  • 被災当日、現場責任者は、他の作業現地の状況を確認するために、昼食後、下山したことから、被災者は、同僚と二人で、間伐作業に従事していた。
  • 同僚が、傾斜約40度の斜面にあったヒノキA(伐根直径:24cm、樹高:18m)を谷側に伐倒したところ、約4.7m下方にあったヒノキB(胸高直径:18cm、樹高:14m)に掛かったため、これを外すために、ヒノキAの伐採点から65cm上方の位置を谷側に向かって「元玉切り」をしたところ、その上木(長さ:16.8m)がヒノキBの根際付近に落下して右側方に倒れたため、ヒノキBの右側方約13mの箇所に退避していた被災者に激突し、被災者は、仰向けの状態で伐倒木の梢端部の下敷きとなり死亡した(死因:外傷性両側血気胸による脳浮腫)(写真2参照)。
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災害発生の原因

  1. 直接の原因
     本災害の直接の原因としては、同僚が、かかり木となったヒノキAを「かかり木の処理の作業における労働災害防止のためのガイドライン」において禁止されている「元玉切り」により処理したことにより、その上木が落下して転位し、右側方に倒れたことが挙げられる。
     なお、かかり木処理器具を作業現場に携行しておらず、日常的に、かかり木を処理するに当たっては、かかり木処理器具を使用せずに、「元玉切り」により対応していたものと考えられる。
  2. 誘 因
    本災害の誘因としては、次のことが挙げられる。
    ① 同僚がヒノキAを伐倒するに当たり、受け口及び追い口を適切につくらなかったことから、「つる」が十分に機能せず、伐倒方向の規制が困難であったこと。
     なお、ヒノキAを伐倒するに当たっては、クサビを使用しておらず、また、受け口の下切りを伐倒木の芯に向かって斜めに切り込むとともに、受け口の斜め切りが極端に浅くて小さく、受け口の下切りと斜め切りの切り終わりを一致させていなかった(写真3参照)。
    ② 複数で伐木作業を行っているにもかかわらず、「山割り」により各作業者の担当区域を決めていなかったことから、近接作業となっていたこと。
    ③ 被災者が、安全な箇所に確実に退避していなかったこと。
     被災者は、ヒノキAの樹高が18mあるにもかかわらず、右斜め下方に13mしか離れていない箇所において受災しているが、受災箇所とヒノキAとの間には、立木が数本あったことから、被災者は、仮に伐倒方向が狂ったとしても、当該箇所に伐倒木が倒れてくることはないと考え、当該箇所に退避して同僚の伐木作業の状況を見ていたものと考えられる。

災害防止対策

  1. 「かかり木の処理の作業における労働災害防止のためのガイドライン」において禁止されている「元玉切り」等は絶対にしないこと。
     具体的には、かかり木に係る実地調査の結果に基づき、あらかじめ、かかり木の処理に使用する機械器具等を決定の上、それを作業現場に携行し、かかり木が発生した場合には、それを適切に使用して速やかに処理すること。また、立入禁止等の措置を講じずに「かかり木」を放置したり、禁止されている「かかられている木の伐倒」、「他の立木の投げ倒し(浴びせ倒し)」及び「かかっている木の元玉切り」等を行うことのないようにすること。
  2. 前記の災害事例1の場合と同様に、複数の作業者が伐木作業を行うときは、「山割り」を適切に行い、あらかじめ、各作業者の担当区域を決めておくとともに、立木の樹高の1.5倍の距離の範囲内に他の作業者を立ち入らせないこと。
  3. 受け口切りと追い口切りを適切に行い、伐倒木の「つる」の機能を十分に発揮させること。
     特に、谷側への伐倒は、一般的に重心の方向に伐倒することになることに加え、伐倒木と下方斜面とのなす角度が大きいことから、早い段階で「つる」が引きちぎれやすいため、伐倒速度のコントロールが困難となり、幹や枝が飛来するおそれがあるなど、他の方向に伐倒する場合に比べ、極めてリスクが大きいことを認識し、他の方向に伐倒することが困難な場合に限定して行うようにすること。
     なお、やむを得ず、谷側に伐倒せざる得ない場合は、リスクが大きいことを十分に認識の上、クサビを使用して慎重に伐倒するようにすること。
     また、立木の状況や地形等に即し、受け口の斜め切りの角度を大きくするなどの措置を適切に講じて、「つる」が容易に壊されないように留意すること。