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災害事例研究 No.3 【林業】

ワイヤロープをかける前に追い口を切ったため、伐倒木が被災者に激突

スギ立木(胸高直径30cm、樹高27m)の伐倒作業において、伐倒木が谷川に転落しないよう、立木にワイヤロープをかけてウインチで引っ張りながら作業を行う予定であったところ、ワイヤロープをかける前に追い口を切ったため、立木が倒れ、被災者に当たったものである。

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災害発生の状況

  1. 災害発生現場は集落に近接する民有林であり、事業内容は2,750m3のスギ立木の伐倒、搬出作業を3か月かけて行うものであった。
  2. 災害発生当日は5人でスギ10数本の伐倒作業を行う予定であり、4本目の伐倒時に災害が発生した。
  3. 当日の伐倒予定木は作業道脇(沢側)にあり、作業道の下は急斜面になっていたため、伐倒木を沢の下方に落とさないよう、伐倒は伐倒木にワイヤロープをかけてグラップルに装着したウインチで山側に引きながら行う予定であった。
     当該事業場においては、伐倒時にワイヤロープを用いる方法はこれまで採られたことがなく、被災当日初めて行われた。
  4. 労働者Aはグラップルに装着したウインチの操作、労働者Bはチェーンソーによる伐倒、労働者Cは伐倒予定木へのワイヤ掛け及びワイヤを引く合図、労働者Dはグラップルと伐倒作業箇所間の斜面で合図の中継およびウインチからのワイヤを被災者に投げ渡し、被災者は労働者Dからのワイヤを受け労働者Cへ投げ渡しの作業をそれぞれ担当していた。
  5. 1本目および2本目は予定通りワイヤロープをかけてから受け口、追い口を取り、さらにくさびを打つと同時にウインチで山側に引きながら伐倒した。3本目は小径木であったために、ワイヤロープを使用しないで伐倒した。
  6. 4本目は1、2本目と同様にワイヤロープをかけて伐倒する予定であったが、ワイヤロープをかける前に労働者Bが受け口および追い口を切り、さらに軽くくさびを打って、労働者Cがワイヤロープをかけるのを待っていたが、労働者Cは労働者Bがすでに追い口を切っていたため危険と感じ、ワイヤロープをかけるのをためらっていたところ、自然に伐倒予定方向に倒れた。
     被災者は1、2本目の伐倒時には山側斜面にいてワイヤロープの受け渡し作業を行っていたが、その後の行動は明らかでないものの、伐倒が進むにつれてウインチからのワイヤロープの長さが足りなくなったため、本来の作業位置を離れて延長ロープを探している時、倒れてきた伐倒木の下になり被災したものと推定される。なお、3本目を伐倒した後、被災者は労働者Dの側に来て、延長ロープを探したが見つからなかった旨話しており、被災時、再び延長ロープを探していたものと推定される。
  7. 4本目が倒れ始めたとき労働者BおよびCは被災者が作業道上にいるのを認め、退避するよう声をかけたが間に合わず被災した。

災害発生の原因

この災害は、伐倒作業において災害防止上極めて重要な作業手順の遵守、合図の徹底、退避の確認等、次に掲げる基本的事項が守られていないため発生したものである。

  1. ワイヤロープで牽引しながら伐倒する作業手順であったにもかかわらず、手順を無視してワイヤロープをかける前に受け口、追い口を切ったこと。
  2. 危険範囲内に他の労働者が立ち入っていないかなど、周囲の安全確認を行わないで追い口を切ったこと。
  3. 合図の方法について明確に定めていなかったこと。
  4. 追い口を切り、くさびを打った状態で伐倒予定木を放置していたこと。

災害防止対策

  1. 作業を開始するに当たっては、安全な作業手順を定めるとともに、関係労働者に周知徹底を図ること。
  2. 伐倒作業に取りかかる合図を定めるとともに、確実に合図を行わせ、他の労働者が退避したことを確認してから伐倒作業を行わせること。
  3. 作業者が予定していた位置を離れる場合の現場責任者への連絡方法等を定めるとともに、その徹底を図ること。

 複数の作業者が連携して作業を行う場合は、作業に取りかかる前に十分打合せを行い、作業手順を確認しておくことが必要である。また、合図については、合図を発する側と受け手側との意思疎通が図られて成立する。
 本事例は、当日初めて行われた作業で、作業の流れが十分軌道に乗らない中で発生したと考えられる。作業は、必要な資機材をそろえてから取りかかるのが当然であるが、作業を進めるうちに想定外のことも発生することがあり、その際は関係者にただちに知らせ、適切な対応をとらせることが必要である。
 また、伐倒に当たっては、他人に倒しかける災害が多発しているところから、必ず伐倒の本合図と安全確認が、作業手順の中に組み込まれていることの再確認をお願いしたい。