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災害事例研究 No.153 【林業】

間伐作業に行く途中の急傾斜地で転落して、12メートル下の河床の岩に激突した

被災者は同僚4人と隊列を組んで、間伐作業のために山道を歩いていたが、前後の者とは距離が徐々に離れ、傾斜50度を超えて前日の雨で濡れた落ち葉がある所で、被災者は足を滑らせ12m程下の河床まで転落し、河床の岩に頭部、腰等を激突した。

災害の発生状況

 災害当日は午後から、初めての作業(切り捨て間伐作業)のために、元請け事業者の作業者3名、下請け事業者の被災者を含めた作業者2名が現場近くに集合して、ミーティング後に現場に向かって山道を歩き始めた。
 現場へは山道を歩いて行くことができる旨、山主から事前に説明を受けていた。被災者はスパイク無しの長靴を履いて歩いていた。
 元請けの責任者が先頭で一列になり、被災者は4番目を歩いていたが、被災者は徐々に前後の者と距離が開き、単独歩行のような状況になっていた。
 最初は狭い道であったが、しばらく進むと道はなくなり、傾斜地を登るようにして山中を歩いていた。
 被災者は傾斜が50度を超える箇所で、前日の雨で濡れた落ち葉で覆われた所で、等高線に沿うように歩いていた時、足を滑らせ滑落した(転落地点の状況から判断したもの)。
 この滑落した箇所は、谷側には雑木等の障害物になるものがないため、被災者は12m下の河床まで一気に転落して、岩に頭部等を強打した。
 他の作業者は転落の音で、事故を察知でき、被災者の所へ急行した時には意識はあったが、体は自力では動かすことができなかった。ドクターヘリで病院へ搬送され、脊椎圧迫骨折の治療を受け、様態が安定していたが、その後急変して4日後に死亡した。

図

災害発生の原因

  1. 前日の降雨のため傾斜地は滑りやすくなっているにもかかわらず、被災者は滑り止めのスパイクが付いていない長靴を使用していたこと。
  2. 急傾斜地(傾斜40度以上)等を歩くときに、安全に歩行できる通路を設けることなく歩行していたこと。
  3. 作業を開始する際に、請け負った事業者は現場の事前調査及び作業計画を作成することなく、山主の不確かな説明のみで作業に着手しようとしていたこと。
  4. 元請け、下請けの混在した作業となっていたが、下請けの作業者への安全確認が徹底できていなかったこと。

災害の防止対策

  1. 森林内で間伐作業を行う場合は滑り止めのスパイクのある安全靴を常に着用すること。また、地面や地被物が濡れている時は滑りやすいので、足元に気をつける。
  2. 作業を始める前に現場の状況を確認するための事前調査を実施し記録すること。その結果を下に綿密な作業計画を立て、リスクアセスメントを実施し、リスクの低減対策を実施すること。
  3. 事前に転落の危険箇所を判断して、ガイドロープや階段状の設備を設置するなど安全に歩行できるような通路を設け、安全ルートを確保すること。
  4. 突然に予期しない急傾斜地を歩くような場合など、安全措置ができない時には作業(歩行)を中止すること。
  5. 危険な所を歩行する場合には隊列を取り、単独の歩行はしないこと。相互の安全確認をして歩行すること。
  6. 作業開始時のミーティング等で危険予知を行い、安全確認を徹底すること。

急傾斜地での転落

 毎年発生している林業現場の転落災害の安全対策については、伐倒災害ほどの関心を集めていないと思われますが、有効な災害防止対策が進まない典型的な災害でもあります。
 山には傾斜地があり、傾斜ある所で林業作業は当然のものとして考えられますが、転落の防止対策は建設業のような対応が出来ていません。
 足を滑らすと重篤な災害につながるような林業作業は随所に見られますが、作業者は何ら転落防止対策を講じずに作業をしている所をよく目にします。
 今回の災害も被災者は歩くことを止めようとはおそらく考えなかったと思われます。このような環境下の作業を当然とする考え方が変わらない限り、傾斜地での転落災害の減少は難しいものと思われます。
 また、近年、転倒による災害が増加しており、特に1年以内の新規就業者の転倒災害が多く発生しています。
 初心者として先輩方に早くついていきたいとの気持ちで急いでいる傾向があること。また、林道法面から林道に飛び降りて怪我するなど、危険に対する認識不足による災害もあります。
 新規就業者は、歩けるのが当たり前でなく、歩き方の技術を指導しなければ災害が減らないものと思われます。

〈労働安全衛生規則〉

(通路)
第540条 事業者は、作業場に通ずる場所及び作業場内には、労働者が使用するための安全な通路を設け、かつ、これを常時有効に保持しなければならない。

〈災防規程〉

(歩行動作)
第238条 会員は、作業地への往復及び作業中の歩行について、作業者に、次の各号に掲げる事項を行わせなければならない。
(1)~(2)略
(3) 急傾斜地や滑りやすいところでは、機械器具の保持、携行について十分に注意すること。

〈チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン〉 基発1207第3号令和2年1月31日

6 作業計画等
(1) 調査及び記録
(2) リスクアセスメント及びその結果に基づく措置の実施等
(3) 作業計画