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災害事例研究 No.38 【林業】

伐倒作業中の材が裂け、激突された

 谷側へ傾斜木となっていたケヤマハンノキを伐倒しようとして、受け口を切り、追い口を入れたところ、伐倒木が縦に裂け、樹幹が跳ね上がって伐倒者が激突された。

災害発生の状況

  1. 災害発生当日は事業主を含め3人で作業に当たり、被災者と同僚の作業員2人が伐倒を担当、事業主がグラップルにより集材を行っていた。
     休憩の後、午後3時30分頃から作業が開始された。被災者は立木2本を伐倒後、急傾斜地の法肩付近に生えているケヤマハンノキ(高さ16.5m、胸高直径28 cm、伐根直径32.5cm)の伐倒を開始した。この時、事業主は30 mほど離れたところで集材作業を行っていたが、「バリン」という大きな音を聞いたので被災者のほうに確認に行ったところ、ケヤマハンノキが縦に裂けており、その脇で倒れた樹幹に右脚を挟まれた状態の被災者を発見した。
    casestudy038_1 ヘルメットは割れて頭部から出血しており、直ちに救急車で病院へ搬送したが頭蓋骨骨折による脳挫傷で死亡が確認された。 伐倒していたケヤマハンノキは受け口側と追い口側に分かれて裂けているが、受け口側は3.83mの樹幹を残して裂けており、追い口側は16 mの樹幹が伐根から切り離され、被災者の右脚に乗った状態で発見されている。
     被災の状況から、伐倒している最中に突然ケヤマハンノキが縦に裂け、裂けた木に激突されたものと推定された。
  2. 伐倒木の受け口、追い口、つるの状況被災者は伐倒方向を谷側に向けて倒れるように受け口を作っているが、切り離された木片からは受け口の角度・大きさともに十分ではなく、下切りが6.5cm、斜め切りの角度が54 度であった。一方、伐根の状況からは下切りの深さは最大で12.5 cmであり、下切りと斜め切りの線も一致していなかった。
    また、追い口切りは水平でなく受け口側に25 度の下り傾斜となっており、追い口側から見て左に18 度傾斜しており、追い口が受け口の終端部分に向かって切られていた。
    つるの状況は、被災者側に殆んど残っておらず反対側に残っていた。このため、伐倒木は裂けると同時に樹幹が手前に大きく跳ね上がった後落下したものと推測された。
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災害発生の原因

  1. 伐倒木が谷側へ傾斜していたにもかかわらず、伐倒方向を下方向へ向け伐倒したこと。
  2. 樹種がケヤマハンノキでハンノキ属に含まれクリやヤチダモなどとともに裂けやすい樹種であったが、ワイヤロープ、麻ロープなどを上部に巻きつけるなどの木が裂けることを防ぐ事前の措置と、受け口を切った後に芯切りを行わなかったこと。
  3. 伐根の状況は受け口が小さく、また、下切り、斜め切りの終端を大きくずれていた。さらに、追い口は水平となっていないなど不適切な受け口、追い口による伐倒であったこと。

災害防止対策

 傾斜木は、応力がかかっており、かつ裂けやすい樹種の場合は特に安全確実な方法で伐採しなければならない。そのための対策として、

  1. 谷側に向かっている傾斜木を、さらに下方向に向けて伐倒すると、倒れる速度も速くなり加えて樹幹の裂けを誘発するなど大変危険である。こうした傾斜木(偏心木)の伐倒方向は、斜面横方向等重心線の反対側を選定し、場合によってはけん引具等を用いて伐倒方向を規制するなど、安全で確実な方法を選択すること。
  2. 受け口切り、追い口切りは基本に則って確実に行うこと。
  3. 裂けやすい樹種を伐倒する場合、事前にワイヤロープ、麻ロープなどを追い口上部に数回強く巻き付けるなどの裂け防止の処置を行うこと。
     受け口切りは予定した方向に確実に倒すため、伐根直径の3分の1以上とするなど深めの受け口とし、受け口の下切りと斜め切りの終端を一致させること。そして、受け口を切った後、芯切りを行っておくこと。
  4. 安全で確実な伐倒とするための伐倒方法である「追いづる切り」も選択肢として検討すること。