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災害事例研究 No.41 【林業】

地引き集材の際に、元口の跳ね上がり防止用ワイヤロープが緊張していたことから、車両系林業機械のウィンチで材を引き上げて当該ワイヤロープを外し、ウィンチのワイヤロープを巻いていたところ、突然、材が動き出し、材の下方にいた作業者が直撃された

 工事支障木を伐倒して、車両系林業機械で地引き集材(横引き)を実施しようとしたところ、伐倒の際に、元口が跳ね上がるのを防止するため掛けていたワイヤロープが緊張していたことから、これを外してから集材することとし、車両系林業機械のウィンチで材を引き上げて当該ワイヤロープを外し、ウィンチのワイヤロープを巻いていたところ、突然、材が動き出し、材の下方にいた作業者が直撃された。

災害発生の状況

  1. 被災者は、同僚3名とともに、道路建設工事用仮設道の山側斜面の上方にある工事支障木の伐木造材作業と車両系林業機械による集材作業に従事していた。
  2. 当該箇所は、仮設道の下方に人家があるため伐倒方向が極めて限定されることから、被災者は、同僚A及びBとともに、チルホール等により伐倒方向等を規制しながら伐木作業に従事していた(写真1参照)。
     また、同僚Cは、伐倒木を車両系林業機械(ウィンチ付きザウルス、総重量7.7ton)により仮設道まで地引き集材(横引き)の上、起点付近の仮設道上においてチェーンソーによる造材作業に従事していた。
  3. 被災当日、仮設道の山側斜面(平均傾斜:約30度)の約10m上方に位置するスギ(伐根径:長径70 cm、短径65 cm、樹高:約28m)を横方向に伐倒するに当たり、被災者は、同僚A及びBとともに、次の準備作業を行った(作業配置状況図参照)。
    【被災者】スギ伐倒木が滑落することを防止するために、チルホールにより伐倒木をけん引しながら伐倒することとし、安全な山側からけん引するために途中にガイドブロックを取付けるとともに、当該木の約7m上方の位置にワイヤロープを掛けた。
    【同僚A】スギ伐倒木の元口が伐倒時に跳ね上がることを防止するために、当該木の約1.4 m上方の位置にワイヤロープを掛け、近くにあった伐根にチェーンソーにより溝を作り、ワイヤロープの端末をこれに3回巻き付けてシャックルで固定した。
    【同僚B】スギ伐倒木を確実に伐倒方向に倒すために、ロープ用ウィンチ(ローププラー)により伐倒方向の斜め上方からけん引することとし、伐採点から約14m上方の位置にロープを掛けた。
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  4. 同僚Aがチェーンソーによりスギ伐倒木を伐倒した後、被災者は、滑落防止のために掛けていたワイヤロープを取り外し、また、同僚Bは、伐倒方向を規制するために掛けていたロープを取り外した。
  5. 同僚Cは、スギ伐倒木の梢端部の幹にワイヤロープを取付け、これに車両系林業機械に装備されているウィンチのフックを掛けて地引き集材(横引き)を行おうとしたところ、跳ね上がり防止のために掛けたワイヤロープが緊張状態であったことから、これを外してから作業を行うこととした。
  6. 同僚Bは、同僚Cが車両系林業機械を移動している間に当該木の枝払い作業を行った。
  7. 同僚Cは、車両系林業機械を伐倒木の下方の仮設道に移動させた後、元口の跳ね上がりを防止するためのワイヤロープを固定していた伐根にガイドブロックを取り付け、被災者の合図により、車両系林業機械のウィンチを操作して当該木を斜面上部に引き上げたところ、緊張していた跳ね上がり防止のために掛けていたワイヤロープが緩んだ。
  8. 同僚Cが被災者の合図により、ウィンチのワイヤロープをゆっくりと緩めたところ、スギ伐倒木が伐根に引っ掛かって動かなくなり、ウィンチのワイヤロープが緩んだ。
     このため、被災者は、スギ伐倒木が安定したものと思い、ガイドブロックからウィンチのフックを外し、同僚Cにウィンチのワイヤロープを巻き戻すように合図を行った。
  9. 合図を受けた同僚Cがフックの位置を確認しながら、ゆっくりとウィンチのワイヤロープの巻き戻しを開始したことから、同僚Aが跳ね上がり防止のためのワイヤロープを止めていたシャックルを外し、ワイヤロープの端末を持って伐根から外そうとしていたところ、突然、スギ伐倒木が動き出し、同僚Aは、持っていたワイヤロープに引っ張られて転倒した。
  10. スギ伐倒木の下方に立ち入っていた被災者は、同僚Aの声で、当該木が動き出したことに気づき、咄嗟に元口方向に逃げようとしたが、間に合わず、スギ伐倒木に直撃された(死因:頸椎損傷)。
     なお、被災者を直撃したスギ伐倒木は、被災者を乗り越え、約6m下まで転落した(写真2、写真3参照)。
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災害発生の原因

  1. 直接の原因
    本災害の「直接の原因」としては、被災者が伐倒木等が転落し、又は滑ることによる危険が予想される斜面の下方に立ち入ったことが挙げられる。
     なお、被災者が立ち入った理由については、現認者がいないため明らかではないが、被災者の顔面右側に打撲傷が見られるが、下半身の腰及び足等には打撲傷及び擦過傷が見られないことなどから、被災者は、当該木が安定しているものと思い、スギ伐倒木の下方に立ち入り、前屈みの状態でウィンチのフックを取り付けていたワイヤロープを取り外していたものと推測される。
  2. 誘 因
    本災害の「誘因」としては、次のことが挙げられる。
    (1) 被災者及び同僚Aがスギ伐倒木が安定したか否かについて、十分に確認しなかったこと。
    (2) 被災者がスギ伐倒木の滑落防止のために掛けておいたワイヤロープを伐木作業が終了した時点において外していたこと。
     なお、通常、伐木造材作業が終了した段階において、被災者等は、安全な箇所に退避し、地引き集材(横引き)時に、スギ伐倒木の下方に立ち入ることはないことから、一般的に滑落防止措置を講じておく必要はないといえる。
     しかし、当該作業地においては、仮設道下方の人家への危害を防止する必要があるなかにあって、地引き集材(横引き)の際に、最も重量のある元口部分が転位し、浮石等を巻き込んで急激に斜面を滑落する危険が考えられ、集材木の滑落を防止のために残されている仮設道沿いの立木だけでは必ずしも十分とは言い難い面があることから、伐倒木の滑落を防止するために掛けたワイヤロープをチルホールにより徐々に緩めながら、地引き集材(横引き)を行うという方法を採用していれば、悲惨な本死亡災害についても未然に防止することができたものと考えられる。

災害防止対策

  1. 林地斜面で作業するときは、伐倒木、玉切材、枯損木等(以下「材」という。)が転落し、又は滑ることによる危険の有無について慎重に点検すること。
     なお、点検の結果、危険が予想されるときは、杭止め、歯止め又はワイヤロープ止め等による材の転落防止措置(以下「転落防止措置」という。)を講じてから、作業に着手すること。
     林地斜面においては、安定していると思われる材であっても、時間の経過とともに、不安定な状態になることがあることから、材がどのような状態にあるのかについて慎重に点検し、その結果、少しでも危険又は不安を感じたときには、必ず転落防止措置を講ずることが重要である。
     また、近年、間伐作業が増加傾向にあるなかにあって、小径木の伐木造材作業の経験しかない作業者も多く見受けられ、一般的に、こうした作業者は、「材の転落に対する危険意識が低い」ことから、悲惨な本災害事例等を真摯に受け止めて、材の転落に係る危険性を十分に認識の上、次に示した「労働安全衛生規則」及び「林業・木材製造業労働災害防止規程」において規定されている「安全基準」等に則して慎重に作業を行うことが極めて重要である。
  2. 林地斜面で造材等の作業を行うときは、材の上方(山側)に位置して行うこと。
     林地斜面における造材作業等を行う場合は、必ず材の上方(山側)に位置して行うとともに、現地の状況等から、やむを得ない理由により、材の上方(山側)に位置して作業を行うことができない場合には、転落防止措置を講じてから行うこと。

【労働安全衛生規則】(昭和47年9月30日労働省令第32号)

 (造材作業における危険の防止)
第480条 事業者は、造材の作業を行なうときは、転落し、又はすべることにより、当該作業に従事する労働者に危険を及ぼすおそれのある伐倒木、玉切材、枯損木等【※風倒木等を含む。】の木材について、当該作業に従事する労働者に、くい止め、歯止め等これらの木材が転落し、又はすべることによる危険を防止するための措置を講じさせなければならない。[※罰則:6月以下の懲役又は50万円以下の罰金]
2 前項の作業に従事する労働者は、同項の措置を講じなければならない。[※罰則:50万円以下の罰金]

【林業・木材製造業労働災害防止規程】
(材の転落防止)
第30条 会員は、造材の作業を行う場合には、作業者に、造材しようとする材が転落する危険がないかを点検させ、転落する危険が予想されるときは、杭止め等の措置を講じさせなければならない。
2 会員は、玉切りした材が転落するおそれがある場合には、作業者に、その材を安定した位置に 移すこと等の措置を講じさせなければならない。

(作業者の位置等)
第32条 会員は、斜面で玉切りの作業を行う場合において、材を切り落とすときは、作業者に、材の上方で作業を行わせ、かつ、作業者に、足先を材、チェーンソーの下に入れさせてはならない。

(支え枝の処理)
第33条 会員は、枝払いの作業を行う場合には、作業者に、地面に接して材を支えている枝は、材を安定させた後に、切り払わなければならない。

【労働安全衛生規則】
(立入禁止)
第481条 事業者は、造林、伐木、造材、木寄せ又は修羅による集材若しくは運材の作業(以下この節において「造林等の作業」という。)を行なっている場所の下方で、伐倒木、玉切材、枯損木等の木材が転落し、又はすべることによる危険を生ずるおそれのあるところには、労働者を立ち入らせてはならない。[※罰則:6月以下の懲役又は50万円以下の罰金]
【※本条は、いわゆる「上下作業」を禁止する趣旨の規定であり、「立ち入らせてはならない」とは、作業のためのほか、通行のためにも立ち入らせてはならないという意味である。】

【林業・木材製造業労働災害防止規程】
(上下作業の禁止)
第15条 会員は、作業中、材が転落し、又は滑ることによって危険が予想される斜面の下に作業者を立ち入らせてはならない。