メニュー

災害事例研究 No.51 【林業】

作業道開設に伴う支障木伐倒中、方向の変わった伐倒木の下敷きになる

 伐倒木が、予定した方向に倒れず近くにあった重機(バックホウ)に当たって跳ねた木が、放置していた「かかり木」に再度当たりそのまま滑って、近くにいた被災者に激突したものと推定される。

災害発生の状況

 災害発生場所は、森林作業道開設現場で、被災者と同僚は作業道開設とそれに伴う支障木の伐倒作業に従事していた。

発生経過

  1. 被災者は出社後、同僚1名と事業場の朝礼において、作業配置及び安全作業の指示を受ける(予定では3名体制作業であったが、1名休みのため被災者と同僚の2名での作業となった)。
  2. 8時過ぎに現場に到着後、被災者は作業道入口から300mの位置で作業に取りかかり、同僚は約250m離れた場所で作業に従事した。
  3. 当日の作業は重機(バックホウ)を使用した作業道の開設作業及び開設に伴う支障木の伐倒作業。
    〈以下推測〉
     被災者は、重機(バックホウ)を使用して作業道開設中、開設の邪魔になる支障木があったため、伐倒を行った。まず、バックホウに近い側の支障木(B)を伐倒し「かかり木」となったが、この「かかり木」をすぐに処理せず、少し離れた支障木(A)の伐倒作業に取りかかった。
     支障木(A)に、切り口を入れた段階でうまく倒れなかった(クサビの準備なし)ので、重機で倒すために重機に戻ろうとした時、伐倒中の支障木(A)が重機側に倒れた。
     倒れた支障木(A)はまず重機に当たり、「かかり木」となっていた支障木(B)側に跳ねて支障木(B)に当たった後、そのまま滑って重機の近くに移動していた被災者に激突したものと思われる。
  4. 16時50分頃、同僚は作業を終了し車に戻って被災者を待っていたが戻らないため、被災者の作業場所に確認に行き、伐倒木の下敷きになっている被災者を発見した。
  5. 一人での救出が困難のため、同僚が近くの民家(車で移動)から連絡し、救急車を手配した。
  6. 救急隊が到着したが、死後硬直が確認されたためそのまま警察署に搬送された後、医師により死亡が確認された。

災害発生の原因

  1. 切り口の状況が悪かったため伐倒木(支障木(A))の方向が変わり、被災者側に倒れた。
  2. かかり木を放置していたため、「かかり木(支障木(B)」に伐倒方向の狂った伐倒木(支障木(A))が当たり、そのまま滑って被災者に激突した。
    casestudy051_1
    casestudy051_2

災害防止対策

表-1(原因及び要因と対策)

原因 1.伐倒の基本(受け口、追い口、つる)の状況が悪かったため伐倒木の方向が変わり、被災者側に倒れた。
2.放置していた「かかり木」に、伐倒方向の狂った伐倒木が当たり、そのまま滑って被災者に激突した。
要因と対策
区分 項 目 要因の具体的内 対 策
人的要因   ・危険要因(かかり木や伐倒木など)に対する危険感覚が不足。
・指導者不在で、不安全行動(かかり木放置やクサビの未使用など)が発生した。
・伐倒経験が不足していたのに、一人で支障木の伐採作業を行った。
〈安全教育の実施〉
・林業の基礎知識や危険性に関する安全の実施。
・従業員の能力向上教育の実施。
設備的要因   ・伐倒木やかかり木の処理について計画(作業方法の決定や使用する機械・工具の選定)が不足していた。 〈作業計画の作成〉
・事業場作業計画及び車両系建設機械作業計画の作成
作業的要因 作業方法 ・伐倒木やかかり木の処理が車両系建設機械(バックホウ)で行われた。
・伐倒の際、クサビを準備していなかった。
・切り口の状況が悪く、「つる」が不足し伐倒方向の制御ができなかった。
・かかり木を放置して次の支障木の伐倒を行った。
・伐倒時の退避場所の確保ができていなかった。
〈作業計画の作成〉
・車両系建設機械
・高性能の林業機械(車両系林業機械)
〈技能教育の実施〉
・伐倒技術や退避方法
・かかり木の処理方法
管理的要因 教育訓練 ・他職より転職して2ヵ月であるが教育が不十分(雇入れ時教育及び伐倒技能教育)。 〈安全・技能教育の実施〉
・雇入れ時教育の実施
・林業技術教育の実施
監督・指導 ・指導者が不在で不安全行動が発生しやすい状況となった。
・事前に必要な工具(クサビ等)の確認ができていなかった。
・安全な作業のための手順が作成されていなかった。
(原則を定めたわかりやすい作業手順がない)
〈監督・指導の強化〉
・指導者とのペア作業
・TBMでの作業安全指示や健康及び工具の確認
・作業手順の作成
適正配置 ・3名での作業予定であったが2名となった時の対応がとられなかった。
・経験が不足しているのに一人で伐倒作業に従事させた。
〈安全管理方法の確立〉
・人員配置の責任者の選任と適正な配置の実施
・作業別作業計画書の作成
安全管理
計画
・車両系建設機械等の作業計画が立てられていなかった(用途外の使用が行われた)。 〈作業計画の作成〉
・機械系の作業計画書の作成

再発防止に向けた対策

 災害が発生した場合、その災害に対する対策をとることも重要であるが、同種災害や類似災害の発生を防止するために、その事業場だけの問題として捉えず、林業に関わる全ての事業場において当てはまるような対策(再発防止策)を検討し、これを確実に実施することが重要となる。
 今回の災害から考えられる対策の項目は、前記の表-1に示すようになるが、今回の事業場も含めて、すべての事業場において適用すべき具体的実施内容としては、表-2のような項目が考えられる。これらの具体的実施内容が確実に実施されれば、今後、同じような災害の再発防止に有効に働くものと推察される。

表-2 再発防止のための具体的実施事項

<安全・技能教育の実施>──事業主として実施すべき教育
雇い入れ時教育 新たに雇い入れた時の安全教育 ・事業場の方針や作業内容に関する基礎知識を新規雇用者に対して実施する。
作業変更時教育 作業内容を変えた時等の変更時教育 ・新たに別の作業につける場合や、作業内容を変更する場合の、変更時教育を実施する。
能力向上教育 一定期間(5年以内を目安)が経過したときの教育 ・技術の更新に伴う新知識教育やマンネリ化防止のための安全意識教育を実施する。
林業技術教育 林業技術習得のための教育 ・伐倒のための技術の習得
 ①通常の伐倒技術
 ②正常木以外(曲がり木等)の伐倒方法など
・非定常作業(かかり木の処理等)における安全確保のための知識・技能習得
・安全基本動作(合図、退避など)の習得
<作業計画の作成>──安全作業の推進のために準備すべき事項
作業計画の作成 事業場単位の作業計画書の作成 作業内容や担当者・使用機械などを明確にすることで、安全対策が立てやすくなる。
車両系林業機械や車両系建設機械の作業計画書の作成 車両系林業機械や建設機械を安全に効率よく使用するため作成し、用途外使用などを防止するため、使用目的や方法を明確にする。
<監督・指導の強化>──作業ルールの遵守や不安全行動・不安全状態発生防止に向けた対策
指導者の配置 新規就労者にOJTを行う指導者の配置 作業手順の遵守や、作業のコツを現場で教えることができる指導者を配置して、OJTを行う。
TBMの実施 作業指示や作業内容の事前確認を確実に実施する 監督者やリーダーによる安全指示事項の伝達や、工具の確認並びに作業員の健康状態もTBMなどを活用してチェックを行う。
作業手順に基づく監督・指導 原則に則ったわかりやすい作業手順(正しい作業手順)を準備 作業手順を準備した上で、手順に基づいて安全指導を実施する。特に、災害発生率の高い作業(伐倒作業など)においては作業手順書を作成する。

*OJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)──実際の仕事を通じて教育を実施すること

*TBM(ツールボックスミーティング)── 作業開始前に仲間内で行う、作業の安全に関する打ち合わせ表-2に記載されている「再発防止のための具体的実施事項」の内容に関しては、今年度の補助事業として各県支部で実施中の「安全衛生推進者等集団指導会」での講義内容に沿っており、当集団指導会の受講とその知識の現場への応用が期待される。