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災害事例研究 No.155 【林業】

偏心した立木の追い口を切り進めたところ、縦に裂け上がって折れて被災者に激突した

ナラ天然林の間伐(整理伐)作業において、被災者は作業道作設予定箇所をチェーンソーによる先行伐採をしていたが、受け口を切り、追い口切りを行っていたときに立木が裂け上がって折れて落下し、被災者に激突した。

災害の発生状況

 当日は、3名の作業者が現場におり、被災者が作業道作設予定箇所をチェーンソーによる先行伐採をし、その後方では他の作業者がバックホーで作業道作設、さらに後方では木材グラップル機による集材、フォワーダにより土場への集材等の作業が行われていた。
 チェーンソーによる伐木の作業箇所は、斜度が40度程度の急斜面であり、数本のナラを伐木した後、偏心したナラ立木(樹高約25m、胸高直径が35cm)の受け口(深さ7cm)を切り、その後に追い口を22cm切り進めたところ、5m程裂け上がって折れて落下し、被災者に激突した。
 当該ナラ立木の伐根直径は45cmであり、受け口の深さは4分の1に大きく満たない状況であった。
 なお、災害発生前に伐倒した他のナラは、いずれも追いづる切り、裂け止め等の措置はとられていなかったが、受け口の深さはほぼ4分の1程度となっていた。

図1

災害発生の原因

  1. 受け口を伐根直径の4分の1以上の深さでとらなかったこと。
  2. 裂けやすい樹種、偏心木について、追いづる切りにより伐倒しなかったこと。
  3. 裂けやすい木の伐倒については、必要に応じロープ等を巻き付けて裂け止めの措置を行わなかったこと。

図2

災害の防止対策

著しい偏心木や裂けやすい樹種の伐倒については、次の諸点に留意すること。

  1. 傾きの方向に倒すと倒れる速度が速くなって、木が裂ける危険があることから、伐倒方向は可能な場合は重心の方向を避け、30度程度左右いずれかの方向とすることが望ましいこと。
  2. 予定した方向に確実に倒すため、受け口は深めに作ること。
  3. 追い口の高さは、通常の位置より高くすること。
  4. 追いづる切りによる方法を考えること。
  5. 裂けやすい木は、必要に応じ、ロープ等を追い口の上部に4~5回強く巻き付けておくなどの裂け止めをすること。
  6. 事前調査を基にリスクアセスメントを実施し、適切な伐倒方法等を組織的に検討すること。

図3

〈 労働安全衛生規則〉
(伐木作業における危険の防止)
第477条 事業者は、伐木の作業(伐木等機械による作業を除く。以下同じ。)を行うときは、立木を伐倒しようとする労働者に、それぞれの立木について、次の事項を行わせなければならない。
一〜二 略
三 伐倒しようとする立木の胸高直径が二十センチメートル以上であるときは、伐根直径の四分の一以上の深さの受け口を作り、かつ、適当な深さの追い口を作ること。この場合において、技術的に困難である場合を除き、受け口と追い口の間には、適当な幅の切り残しを確保すること。
2 立木を伐倒しようとする労働者は、前項各号に掲げる事項を行わなければならない。

〈 チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン (令和2年1月31日付 基発0131第1号) 〉
7 チェーンソーを用いて行う伐木の作業
(1)~(3) 略
(4) 追いづる切り (図 略)
偏心の程度が著しい立木又は裂けやすい木では、以下の手順による追いづる切りが安全に伐倒する方法として有効であること。
ア 受け口を切ること。
イ 追い口を切るときに、受け口の反対側となる部分の幹は切らず、突っ込み切りにより側面からチェーンソーを水平に深く入れること。
突っ込み切りの際には、チェーンソーのバー先端部上側が立木に触れるとキックバックするおそれがあることに留意すること。
ウ チェーンソーで水平切りを行い、一方で、受け口の反対側となる幹の部分を追いづるとして残しておくこと。
エ 最後に追いづるを切ることにより、伐倒すること。

〈 林業・木材製造業労働災害防止規程 〉
第58条(追いづる切り)
会員は、偏心の程度が著しい立木又は裂けやすい木では、追いづる切りにより伐倒させなければならない。