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災害事例研究 No.58 【林業】

運材作業中に不整地運搬車が路肩から滑落し、被災者が運搬車の下敷きになる

 被災者(17歳)は、造材されたスギ材の運搬作業に従事していた。作業は不整地運搬車(最大積載量10t)を用いて行われており、傾斜地に開設された作業路を使って集積土場まで玉切材を運搬していた。
 被災者が土場より積込み場所に戻る途中の回転場で、バックに切り替えるため方向転換を行おうとしたときに、不整地運搬車が作業路から逸脱し斜面を滑落した。その際に何らかの理由で被災者が車外に放り出され、不整地運搬車のクローラーの下敷きとなり死亡した。

災害発生の状況

 災害発生場所はスギ人工林材の伐出現場で、被災者は不整地運搬車を用いて原木を集積土場まで運搬する作業に従事していた。

発生経過

  1. 朝の作業開始より被災者は、同僚2名とスギ材の集造材・運材作業に従事していた。
  2. 1名(作業班長)はザウルスを使用した作業路開設作業、そして他の1名はプロセッサ及びグラップルを使用しての造材・積込み作業を行っており、被災者は不整地運搬車を使用して、玉切材を集積土場まで運搬する作業に従事していた。
  3. 午後はそれぞれの持ち場に移動し作業を開始し、被災者は、不整地運搬車を集積土場より積込み位置まで、(縦断勾配角約5度)の作業路を前進走行の状態で移動させていた。
  4. 積込み場所では車体を後ろ向きにする必要があるため、途中の回転場(写真2参照)で機体を回転させようとした。その際、作業路路肩から不整地運搬車が逸脱し、前のめりの状態で傾斜角約40 度前後の斜面を約22m滑落(写真1参照)した。
    なお、不整地運搬車は、横転・裏返しにはなっていない状態(写真3参照)であった。
    〈以下推測〉
    滑落の途中、何らかの理由で被災者は車外に放り出され、その際に不整地運搬車のゴム製クローラー(写真4参照)の下敷きになったものと思われる。
  5. 13時25分頃、同僚が作業路から逸脱した運搬車を見て確認に向かい、下敷きになった被災者を発見し、直ちに救急車を手配するとともに、関係者への連絡を行った。
  6. レスキュー隊と医師が到着し救出作業が行われ、15 時30 分頃救出された被災者を医師が診断したが死亡が確認された。

災害発生の原因

  1. 年少者に危険な業務(就業制限のある業務)を行わせたこと。
  2. 資格(技能講習)が必要となる業務に無資格者を従事させたこと。
  3. 運搬車の安全確保(十分な作業空間確保や転落防止)に対する措置が十分でなかったこと。

状況写真

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写真1 全景―矢印に示す部分に沿って滑落
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写真2 回転場(直径約6m)の状況
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写真3 滑落場所の状況
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写真4 不整地運搬車(10t)の状況

再発防止対策の検討に向けた問題点の把握

  • 運搬車を使用した運材作業での注意点

 17歳の年少者が運搬車による運材作業に従事していたが、使用する運搬車の種類(今回は不整地運搬車)により、表1に示す制約(就業制限や資格及び安全措置)がある。
 運材作業を行うに当たっては、使用する運搬用機械の種類により、表1に示すような問題点(法令違反)が発生する恐れがある(走行集材機械に関しては、労働安全衛生規則改正施行は平成26年6月1日、安全衛生特別教育規程の一部を改正する告示の適用は、12月1日)。
 これらの問題点を事前に把握しておくことが再発防止に向けた重要なポイントとなり、運搬用機械の使用にあたっては、表1に示した事項を必ず理解したうえで労働者に就業させることが必要となる。
 なお、伐木等機械や架線集材機械については異なる規制もあるため、林材安全2014年3月号(特集:労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について)を参照のこと。

災害防止対策

 問題点から見た運搬車を使用した運材作業においての、同種や類似災害の発生を防止するための再発防止策は表2のとおりである。

表1

種類 年少者(18 歳未満)の
就業制限
安全衛生教育 安全作業に対する措置
(今回の災害に関係の深いものを記述)
不整地運搬車 年少則第8条第12 号により、
「動力により駆動される土木建築用機械の運転の業務」が禁止   
最大積載量1t以上
-技能講習
最大積載量1t未満
-特別教育 
安衛則(関係分のみ記載)
・作業計画の作成
・作業指揮者の選任
・転落の防止
幅員の確保、地盤の不同沈下防止、路肩の崩壊防止、必要に応じた誘導者の配置等
走行集材機械(フォワーダ等) 年少則第8条第7号により、
「動力により駆動される運搬機の運転の業務」が禁止    
平成26 . 12 . 1 より
-特別教育が必要となる     
安衛則で、平成26 . 6 . 1 より以下の措置が必要となる(関係分のみ記載)
・ 防護柵の設置や必要に応じヘッドガード、転倒時保護装置等の設置
・作業計画の作成
・作業指揮者の選任
・転落の防止
幅員の確保、障害物の除去、路肩の崩壊防止、必要に応じた誘導者の配置等

表2

再発防止策

1.年少者を就労させる場合の安全措置の実施。

  1. 労働基準法により、年少者とは18 歳未満の者をいう。なお、15 歳未満の児童については、原則就労禁止。
  2. 年少者を就労させる場合、
    ① 事業者は年齢証明書(市町村長が発行するもの)を事業場に備え付けること。
    ② 危険業務(資料参照)への就業をさせないこと。

2.現場において使用する機械の種別を把握し、それに応じた安全措置を行う。

  1. 車両系荷役運搬機械及び車両系建設機械
    ① 安全作業のための措置──作業計画作成や作業指揮者の選任、安全走行のための措置。
    ② 資格──最大積載荷重や車体重量に応じ、技能講習や特別教育が必要となる。
  2. 車両系木材伐出機械(伐木等機械、走行集材機械、架線集材機械)
    ① 安全作業のための措置──平成26 年6月1日より以下の措置が必要(代表例のみ記載)。
    ・作業計画作成や作業指揮者の選任等。
    ・安全装置の設置(防護柵、ヘッドガード、転倒防止装置やシートベルト等)。
    ・ 安全走行のための措置(転落防止のための障害物の除去・誘導者の配置・必要な幅員確保等及びその他の安全確保のための措置)。
    ② 資格──平成26 年12 月1日より特別教育が適用となる。

3.安全確保のため、法令や林災防規程の内容を把握し遵守する。

  1. 法令(労働基準法、労働安全衛生法及びその他規則)の遵守
    労働基準法で就業が制限される、年少者に対する安全対策を確実に実施する。
    また、労働安全衛生法やその他の法令についても、関係する規制に関しての内容を把握し確実に実行する。
    *施行される改正労働安全衛生規則の内容については、林材安全2014年3月号参照
    ・平成26年 6月1日──安全作業のための規定や機械の安全装置(防護柵)設置など
    ・平成26年12 月1日──特別教育規程に関するもの及び既に使用している機械の安全装置の設置
  2. 林災防規程(=林業・木材製造業労働災害防止規程)の遵守
    林災防規程には、法令に規定されていない詳細な内容が規定されており、これらの規定を遵守することは、安全配慮義務を果たす上での重要な項目となる(安全配慮義務違反は、民事における損害賠償の有無判断の重要な要素となる)。

≪参考≫年少者の就業が制限されている業務
年少則第8条(特に林業に関係するもののみ記載)

【3号】 クレーン、デリック又は揚貨装置の運転
【6号】 動力により駆動される軌条運輸機関乗合自動車又は最大積載量が2トン以上の貨物自動車の運転
【7号】 動力により駆動される巻上げ機(電動・エアホイストを除く)、運搬機又は索道の運転
【10号】 クレーン、デリック又は揚貨装置の玉掛けの業務(2人以上での玉掛け作業の補助作業は除く)
【12号】 動力により駆動される土木建築用機械の運転
【23号】 土砂が崩壊するおそれのある場所又は深さが 5m以上の地穴における業務
【24号】 高さが5m以上で、墜落のおそれのある場所
(40度以上の斜面が該当)における業務
* 安衛則では、高さ2m以上で墜落のおそれのある場所では、作業床の設置や安全帯の使用が義務づけられるために注意が必要
【26号】 直径が35cm以上の立木の伐採の業務
【27号】 機械集材装置、運材索道等を用いて行う木材の搬出の業務
【39号】 さく岩機、鋲打機等身体に著しい振動を与える機械器具を用いて行う業務