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災害事例研究 No.59 【林業】

林業作業の体験就労者が伐倒した伐倒木の方向が変わり、近くにいた作業者に激突した

 民有林の皆伐作業の現場で、新規採用予定者の適性を見るための体験就労の労働者と事業場監督者(被災者)が共に現場に入り伐倒作業を行わせていたところ、体験就労労働者の伐倒木(樹高約22m)の伐倒方向が変わり、同伐倒木から上方14m離れて伐倒作業を行っていた被災者に激突したもの。

災害発生の状況

 被災現場は斜度20~25度の北側に面した斜面で約6ヘクタールほどのカラマツ林の皆伐作業である。
 災害発生当日は、作業開始から7日目で、当該事業場へ体験就労の労働者(以下、作業員Aという)に被災者である監督者が伐木作業を教えながら作業に当たっていた。
 作業員Aは、コンビニ等に短期就労したが林業の経験はゼロであった。
 午前7時に現場に到着し、チェーンソーの取り扱い方法、給油の方法、伐木作業の基本について監督者から作業員Aに教育を行った。
 監督者は作業開始前に作業員Aに対して次のように説明を行った。

  • 伐倒する方向側から受け口を三角の形になるように切ったのち、伐倒する方向の反対側から追い口を切ること。

具体的には

  • 受け口については、下から15度くらいの角度で切ったのち、上から斜めに切り、下の切り口と交差するように切ること(会合線を一致)。
  • 追い口については、受け口の下切の切り口から10cmから15cm位の高さから伐りはじめ、木が音を立てるところまで切れば自然に倒れていくこと。

 7時30分ごろ作業が開始され、当初、監督者が自らカラマツ立木を伐倒して作業員Aに伐倒方法を見せ、2~3本伐倒した。
 その後、作業員A自身でチェーンソーを持ち、監督者から指導を受けながら5~6本カラマツ立木を伐倒。
 休憩後、監督者が「この木なら谷川に倒れる。大丈夫だから1人で伐倒してみなさい」と言って指示し、監督者は作業員Aの位置から14m程斜面上方の伐木作業を開始した。
 作業員Aは胸高直径27 cm、樹高22mのカラマツを指示通り沢側に倒そうと受け口を切り、追い口を入れたところ、木は約150度方向を変えて山側(南側)に倒れ、上方で作業を行っていた被災者に激突したもの。
 受け口の下切りの深さは伐根直径の5分の1でやや浅め、斜め切りの角度は約40度、斜め切りと下切りの線(会合線)は一致していなかった。また、追い口の高さは会合線から6cmの高さで(受け口の高さにほぼ一致し)受け口に向かって12度の勾配になっていた。
 伐根に残されたツルの状況は有効に機能した痕跡はなかった。
 作業員Aは、「チェーンソーを用いて行う立木の伐木」の業務にかかる特別教育は修了していなかった。
 災害発生場所の天候であるが、気象データがなく現場の風速、風向は不明であり、付近の町村のデータでは、南東ないし南西の風2mから3mのデータが得られているが、当日の作業員の話では時折斜面下方(北側)から吹き上げるような風が吹いていたとのことである。
casestudy059

災害発生の原因

  1. 採用間もない、チェーンソーによる伐木作業が全く未経験の者で、加えてチェーンソーの特別教育も行われていない労働者にチェーンソーによる立木の伐採を行わせたこと。
  2. 伐倒の教育を行うに当たり、その内容がくさびを使用して伐倒するなど基本的な伐倒方法から逸脱していたこと。
  3. 追い口が水平に切られておらず、ツルの高さが受け口の3分の2となる基本的な伐倒がなされていなかったために、ツルが機能せず、風によって伐倒方向が大きく変わったと推定されること。
  4. 退避の合図の取り決めがなかったこと。
  5. 樹高の1.5倍以上の半径内(危険区域内)で事業場監督者が退避もせずに作業を行っていたこと。

災害防止対策

 多くの労働災害は不注意から発生すると言われるが、自然を相手に作業を行う林業は日々刻々、場所により注意すべき対象が変わり、十分な知識と経験を持ったベテランにおいてもミスを犯し重篤な災害につながっている。まして一度も立木の伐倒を行ったことがない者が、十分な教育を受けずに伐倒作業に当たることは極めて危険で決してあってはならないことである。
 チェーンソーによる伐木は労働安全衛生規則第36条により特別教育を必要としているが、他の危険有害業務と比較して格段にリスクの高い作業であり、特別教育を受け、なお、現場で十分な危険予知訓練を受け、ミスを犯しても災害に至らない方法によって実施訓練が繰り返し行われた後でなければ伐倒作業に従事すべきでない。
 また、事業主は教育担当者が労働災害防止について十分な知識を持ち合わせているか、基本に忠実な知識を有しているか等を確認し、適切な安全教育が行われる体制を確立しなければならない。