メニュー

災害事例研究 No.158 【林業】

窪地の立木を山側に伐倒したところ、伐倒木が倒れた勢いで元口が跳ね上がり伐倒者に激突

被災者は林道下方の窪地のスギ立木(胸高直径50cm、樹高約25m)を斜面の上方に伐倒したところ、伐倒木が倒れた勢いで窪地のふちの部分が支点となり元口が跳ね上がり激突した。
伐倒木の状況を見ると、追い口切りが受け口の下切りの高さとほぼ同じ高さで、切り残し(つる)がほとんどない状況であった。また、スギ立木は斜面の上方に僅かに偏心していたことが推察された。

災害発生の原因

  1. 林道から見るとスギ立木は窪地の中に立っており、山側に倒すと窪地のふち部分が支点となって、元口が跳ね上がることが予想されるにもかかわらず、山側に伐倒したこと。
  2. 追い口切りは受け口の下切りと同じ高さで切られ、受け口と追い口の間には適当な切り残し(つる)が残されていなかったこととクサビが使用されていなかったことから、立木の倒れる時間が早く、退避する時間がなかったこと。
  3. 退避場所があらかじめ選定されていなかったこと。

災害の防止対策

  1. 伐倒した立木の斜面の下側は窪地となっていなかったことから、伐倒方向は斜面の下側に選定し、受け口切りの深さは4分の1以上となるように作り、追い口切りの高さは受け口の高さの下から3分の2程度の位置とすること。 また、追い口切りの深さは、つる幅が伐根直径の10分の1程度となるようにつるを残し、クサビを2枚以上使用して重心を伐倒方向へ移動させて伐倒し、クサビを使用して伐倒することにより、倒れる時間をできるだけ長くして退避する時間を確保すること。

〈 参考 〉

窪地の立木(盛り上がった地形等へ倒す場合を含む。)を伐倒する場合の留意点
① 窪地の立木を伐倒するときは、伐倒木の先端が倒れた勢いで、窪地のふちの部分が支点となって元口が跳ね上がるので、伐倒方向の選定に当たっては、地形ができるだけ平坦で元口が跳ね上がらない方向を選定すること。
② 被災者が高年齢労働者であったことも考慮して、伐倒者が退避する時間を確保する(伐倒木の倒れるスピードを遅くする)ためには、つるを残してクサビを用いて伐倒することが必要であること。
③ 偏心木の重心を移動させて伐倒する場合は、経験が豊富な者の指導の下で、クサビを2枚以上使用して重心を移動させること。さらに、重心を移動させなくともよい偏心した立木の伐倒は、退避動作がしやすい「追いづる切り」により伐倒することも有効である。

〈 労働安全衛生法:労働安全衛生規則 〉

(伐木作業における危険の防止)
第477条 事業者は、伐木の作業(伐木等機械による作業を除く。以下同じ。)を行うときは、立木を伐倒しようとする労働者に、それぞれの立木について、次の事項を行わせなければならない。
一 伐倒の際に退避する場所を、あらかじめ、選定すること。
二 略
三 伐倒しようとする立木の胸高直径が二十センチメートル以上であるときは、伐根直径の四分の一以上の深さの受け口を作り、かつ、適当な深さの追い口を作ること。この場合において、技術的に困難である場合を除き、受け口と追い口の間には、適当な幅の切り残しを確保すること。

「チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン」(令和2年1月31日付基発0131第1号)

7―(3)
ア 概要(図1参照)伐倒作業において、正しい受け口切り及び追い口切りによって、受け口と追い口の間には適当な幅の切り残し(以下「つる」という。)を正しく残すこと。
なお、安衛則第477条第1項第3号に基づき、伐倒しようとする立木の胸高直径が20センチメートル以上であるときは、伐根直径の4分の1以上の深さの受け口を作り、かつ、適当な深さの追い口を作ること。
この場合において、技術的に困難である場合を除き、伐根直径の10分の1程度となるように、つるを確保すること。
……また、2個以上の同一形状のくさびを使用して行うことを原則とすること。なお、立木の重心の移動等を踏まえ、くさびを使用すること。……
イ 受け口切り
伐根直径については、立木の根張りを含めるものではないこと。
(ア)略
(イ)受け口の下切りの深さが伐根直径の1/4以上となるように水平に切ること。
なお、胸高直径が70センチメートル以上の立木の場合は、1/3以上となるようにすること。
ウ 追い口切り(図2参照)
(ア)追い口切りは、受け口の高さの下から2/3程度の位置とし、水平に切り込むこと。
(イ)追い口切りの切込みの深さは、つる幅が伐根直径の1/10 程度となるようにし、切り込みすぎないこと。
エ くさびの打ち込み
(ア)くさびは、のこ道の確保及び伐倒方向を確実なものとすること等のために用いるものであること。
(イ)追い口切りにおけるのこ道の確保のため、薄いくさびを使用すること。
(ウ)その後、切り幅の進行を確認しつつ、重心を移動させるための厚いくさびを使用すること。
(エ)上記によりくさびを複数同時に使用する場合は同一形状かつ同じ厚さのものを組にして使用すること。
(4) 追いづる切り
偏心の程度が著しい立木又は裂けやすい木では、以下の手順による追いづる切りが安全に伐倒する方法として有効であること。
ア 受け口を切ること。
イ 追い口を切るときに、受け口の反対側となる部分の幹は切らず、突っ込み切りにより側面からチェーンソーを水平に深く入れること。突っ込み切りの際には、チェーンソーのバー先端部上側が立木に触れるとキックバックするおそれがあることに留意すること。
ウ チェーンソーで水平切りを行い、一方で、受け口の反対側となる幹の部分を追いづるとして残しておくこと。
エ 最後に追いづるを切ることにより、伐倒すること。