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災害事例研究 No.94 【林業】

急傾斜地の大転石が飛来、除伐作業をしていた作業者に激突

 被災者は傾斜35度の斜面上で、石(直径80センチ)の上に乗って、斜面上部の倒木(かかり木)をチェーンソーで処理をしていた時、被災者が乗っていた石が動き、この石に支えられていた上部の大転石(直径約2メートル)が突然谷側へ転落を始めた。被災者は大転石を避けようとして、3メートル程下方へ退避をしたものの、大転石は途中の立木に当たり、被災者の方向に向きが変わり、飛来してきて被災者に激突した。

災害の発生状況

 当日は班長が不在で、3人編成の作業班で除伐作業を行っていた。
 作業は、2人が伐倒作業、1人がフォワーダにより集材作業をしていた。
 災害発生時、伐倒作業の2人は山の尾根を挟むように50メートル程離れて作業をしており、被災者は傾斜35度程度の傾斜地での伐倒作業中であった。
 終業時刻の17時になっても、被災者が集合場所に現れないので、同僚が探しに行ったところ、仰向けに倒れている被災者を発見した。
 同僚は16時30分頃、被災者のチェーンソーの音を聞いていたので、災害発生は16時30分から17時の間と推定される。
 災害発生時の目撃者はいないが、倒れていた被災者及びその周囲には次の状況が認められた。

  1. 被災者が処理したかかり木及び被災者が乗っていた石が動いた痕跡。
  2. 乗っていた石に隣接して2メートル程の直径の凹地があり、そこから100メートル程谷側方向に、転落したと思われる大転石が見られた。
  3. 現地には大転石が転落した痕跡が見られた。
  4. 被災者は、骨盤骨折による出血死である。

 以上から、被災者が乗った石が、作業の振動等で動き出し、この石に接していた大転石がバランスを崩し、下方へ転落したと推察される。
 被災者は大転石の転落に気が付いたものの、大転石が途中の立木に当たり、退避した方向へ向きが変わり、被災者に激突したと推察される。
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災害の発生原因

  1. 大転石が安定しているものと思い込み、転落することを予想していなかったこと。
  2. 不適切なかかり木処理(元玉切り)により退避が遅れたことが推察される。
  3. 班長不在の中の作業であり、急傾斜地の転石対策が検討されていなかったこと。

災害の防止対策

  1. 急傾斜地での転石は、常に崩落の危険があるものと考え、作業開始までに現地踏査を行い、転石が散見される場合はリスクアセスメントを実施し、転石対策を実施すること。
  2. かかり木処理は、元玉切りをせずに、フェリングレバー等によりかかり木を外すこと。
  3. 急傾斜地での作業では、不安定な転石の上に乗って作業をしないこと。
  4. 腰より高い位置でチェーンソーを操作しないこと。
  5. 特に急傾斜地での伐倒作業では、足場が極めて不安定な場合が多いので、安全な退避場所をあらかじめ決めておくこと。
  6. 班長等は傾斜地での作業を開始する場合に、事前に示した転石や浮石に対する安全対策を遵守させること。

 一見、重量物でもある岩や石は、人力では動かせず安定しているように見えるが、長い年月をかけてその場所に存在しているもので、当然に地形変動や風雨の浸食を受けている。
 地表から出ている岩が、岩盤か転石かを見分けることは難しいと思われるが、急傾斜地にある岩や石は、常に谷川に転がろうとする力が働いており、何かの拍子にバランスを崩して滑落していくものだと考えておかなければならない。本件災害では、山地にある岩、特に、急傾斜地の岩は滑落の危険性の高い転石と考え、常にそのリスクを考慮した作業を行わなければならないことを示している。