メニュー

災害事例研究 No.45 【林業】

NCルータの移動テーブルとフレームの間に挟まれた

 被災者は、工場内でNCルータを用いて木製椅子の加工作業中、機械の周囲に飛散した木くずを除去しようと、同機械を稼働させたまま安全柵の扉を開けてフレーム付近に立ち入ったところ、移動してきたテーブルとフレームの間に挟まれ、肺挫傷で死亡したもの。

災害発生の状況

 当該工場は、主に自社製造の成形合板を加工して家具を製作する工場であり、部門は3部門に分かれている。合板用プレスで木材圧着を行う「プレス部」、塗装・組立てを行う「塗装組立部」、材料の切断加工を行う「加工部」の3分門で、被災者は加工部の中のNC課に所属し、課長以下、被災者を含め5名体制で、7台のNCルータにより加工が行われている。
 被災当日に被災者が担当したNCルータは、椅子の背もたれ部と椅子本体を加工するものであるが、一連の動作を与えるプログラムは、同課の責任者によってパソコンから入力し、被災者は機械本体の始動ボタンを押すのみで、NCルータの詳細な動きに関しては認識していなかったと思われる。
 夕方になり、たまたま別の作業を行っていた同僚が、被災者の担当していた機械の側を通ったところ、胸部をNCルータのフレームと移動テーブルの間に挟まれて出血している被災者を発見した。
 このとき、加工で生じた切削屑を吸引する直径15 cmのホースが被災者の側にあり、NCルータの周りに堆積している切削屑が被災者の側だけ少なくなっていることから、被災者は切削屑をホースで吸引作業をするために、移動テーブルの可動範囲に立ち入って挟まれたものと思われる。
 このNCルータは当初、機械を設置した時点では、周囲に安全柵が設けられ、中に入るための扉にもセーフティードアスイッチがあり、扉が開くと機械が停止する安全措置がなされていた。しかし、購入2年後から、このセーフティードアスイッチの機能を殺し、扉が開いても機械は停止しないようになっていた。
 この理由として、製作中に、接触不良などでドアスイッチが入ると、初期設定がやり直しとなり、製作中の加工材料が使えなくなるためであった。
 また、移動テーブルの周囲には、ロープ式の非常停止装置も設けていたが、機能はしていなかった。
 清掃作業については、NCルータの機械の周囲には切削屑が堆積するため、定期的に行うが、集塵ホースの吸引能力が低いため、切削屑をホース先端までかき集める必要があって、安全柵の中に立ち入る必要があった。

災害発生の原因

  1. 稼働しているNCルータを停止することなく、同機械の移動テーブルの可動範囲に入って、切削屑の清掃作業を行ったこと。
  2. 機械にあらかじめ取り付けていた安全装置である安全柵のドアスイッチが無効にされていたこと。
  3. 木材加工用機械作業主任者は選任していたが、木材加工用機械の安全装置の点検と異常が認められた場合の必要な措置がなされていなかったこと。
    casestudy045

災害防止対策

 最近は、木材加工用でもコンピュータ制御により、複雑な動作をこなす機械が増えている。特に、移動テーブル等が動く大きな動作をする機械は、不意の作動による危険を防止するための十分な対策と、作業員の教育が必要である。
 本件の災害のようなNCマシンの移動するテーブル等に挟まれる災害が繰り返されることから、平成23 年1月に労働安全衛生規則が改正され、NCマシンなどの一般的な機械についても覆い、囲い、又は柵を設ける等の危険防止措置が規定された。
 今回の災害事例は、この危険防止の安全柵は設けられ、かつ、中に入るためのドアが設置してあり、このドアにセーフティードアスイッチが取り付けられていて、稼働中にドアを開ければ機械が停止するようになっていた。しかし、このセーフティードアスイッチを無効にして、ドアが開いている状態でもNCルータは稼働するようになっており、安全措置の機能が果たされていなかったものである。
 災害の直接の原因は非常に単純ではあるが、再発防止への対策は不安全状態を生じさせた根本原因を取り除かなければならないことと思われる。

  1. 安全管理は、企業の社会的な責任であり、安全第一、品質第二、生産第三のという安全を重視した企業経営の原点に帰ること。
  2. 安全経費、安全作業によるロスは、必要経費であり、安全を織り込んだ生産体制が求められること。
  3. 経営トップは、安全衛生の最高責任者であることを自覚し、各組織の責任者に安全対策を徹底させること。
  4. 工場内のすべての機械について、リスクアセスメントを実施し、危険源の特定と作業者に対して危険性の感受性を高めること。

 等々であるが、作業者の不安全行動を完全に排除することは難しく、機械等の不安全状態を極力排除することを基本的な安全対策として考えるべきである。

【参考】
労働安全衛生規則(抄)

(安全装置等の有効保持)
第二十八条 事業者は、法及びこれに基づく命令により設けた安全装置、覆い、囲い等(以下「安全装置等」という。)が有効な状態で使用されるようそれらの点検及び整備を行なわなければならない。

(労働者の守るべき事項)
第二十九条 労働者は、安全装置等について、次の事項を守らなければならない。

一 安全装置等を取りはずし、又はその機能を失わせないこと。
二  臨時に安全装置等を取りはずし、又はその機能を失わせる必要があるときは、あらかじめ、事業者の許可を受けること。
三  前号の許可を受けて安全装置等を取りはずし、又はその機能を失わせたときは、その必要がなくなつた後、直ちにこれを原状に復しておくこと。
四  安全装置等が取りはずされ、又はその機能を失つたことを発見したときは、すみやかに、その旨を事業者に申し出ること。
2 事業者は、労働者から前項第四号の規定による申出があつたときは、すみやかに、適当な措置を講じなければならない。

(そうじ等の場合の運転停止等)
第百七条 事業者は、機械(刃部を除く。)のそうじ、給油、検査又は修理の作業を行う場合において、労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、機械の運転を停止しなければならない。ただし、機械の運転中に作業を行わなければならない場合において、危険な箇所に覆いを設ける等の措置を講じたときは、この限りではない。

2 事業者は、前項の規定により機械の運転を停止したときは、当該機械の起動装置に錠をかけ、当該機械の起動装置に表示板を取り付ける等同項の作業に従事する労働者以外の者が当該機械を運転することを防止するための措置を講じなければならない。

(機械のストローク端による危険防止)
第百八条の二 事業者は、研削盤又はプレーナーのテーブル、シエーパーのラム等のストローク端が労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、覆い、囲い又は柵を設ける等当該危険を防止する措置を講じなければならない。

(木材加工用機械作業主任者の職務)
第百三十条 事業者は、木材加工用機械作業主任者に、次の事項を行なわせなければならない。
一 木材加工用機械を取り扱う作業を直接指揮すること。
二 木材加工用機械及びその安全装置を点検すること。
三 木材加工用機械及びその安全装置に異常を認めたときは、直ちに必要な措置をとること。
四 作業中、治具、工具等の使用状況を監視すること。